ここで実現されている「シュレーディンガーの猫状態」を構成する光子はお互いに位相の可干渉性を壊すような相互作用を行わない。ところが、室温の現実の生きている猫も、死んでしまっている猫も、猫を構成する粒子はお互いに相互作用を行って、重ね合わせの状態を壊し、位相の可干渉性をこわしている。ここに大きな違いがあるのではないだろうか。(ネコが防音の箱の中でにゃーにゃー鳴き続けていたらどうなの?という思考実験に近い話である。重ね合わせる元々のそれぞれの状態について、自身の熱振動で可干渉性が壊れるかどうかの違いである。ネコ大好きなので想像したくないが。。。)
この本の p78 には、『たとえば、原子1個をなんらかの方法で台の上に置いても、台の上に置いたとたん、その台を構成している原子の熱振動により、原子の波動関数は大きく乱され、量子力学的性質―波としての性質は失われてしまう。つまり、重ね合わせの状態などをつくることはできなくなってしまう。』と記載されており、これと同様の主張だと思うが、その理屈でいうと、猫の波動関数は絶対零度に近い温度になっていない限り重ね合わせの状態を維持することはできない、ということなのではないだろうか。絶対零度で生きている猫とはどんな状態だろう。(急速にかなりの低温まで冷却されて凍った金魚やゴキブリやクマムシがその状態で生きているのか死んでいるのかというのは、別問題として興味深い。)
この本はそのあたりをわかっている前提で読む本なのではないか、と思った。
こういった経緯で、熱振動を行っている物体(生きている猫など)を量子力学的な干渉する重ね合わせ状態のみで記述することはできないような気がする。状態ベクトルが量子力学的にシュレーディンガー方程式の下で時間発展するときは、可逆変化を取り扱っている思う。生きている猫も死んでしまった猫も非可逆変化(エントロピー増大?時間の矢の問題?)で時間変化していると思うので、そもそも生きている猫を猫自身による収縮を考えない状態ベクトルの重ね合わせの可逆な時間発展だけで記述すること(シュレーディンガー方程式の範囲内での時間変化記述)はできないのではないか、と常々思うのであるが、「シュレーディンガーの猫」の状態は教科書に載っているくらいなので、私はどこで間違ってしまったのだろうか、とも、常々思うのである。
講談社
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9月16日に以下追記しました。
Twitterのタイムラインに流れてきた情報です。参考にして勉強します。ありがとうございました。
光子の偏極の重ね合わせを使った量子暗号の装置などは随分前に商品化もされています。またシュレーディンガーの猫状態も実験で沢山作られ、報告されてます。その意味では、「既に創り出している」時代です。RT 創り出そうという時期 https://t.co/9o4e4JVtgN
— Quantum Universe (@hottaqu) 2017年9月15日
前世紀初頭から量子テレポーテーションなどの量子力学の本質を使う技術が成熟した現代まで、数多の実験結果を正しく説明してきたコペンハーゲン解釈。波動関数の収縮やシュレ猫状態がどんどん実験で使われても、ここまでボロの出ないこの理論は、極めて成功している理論だ。その事実は尊重しなければ。
— Quantum Universe (@hottaqu) 2017年9月15日
現在では深い霧はすっかり晴れているので、深入りしても全然問題ありません。ただ前世紀の理解のまま書いてる科学哲学者の量子力学本を読むのは、有害そのものです。若い方は、ご注意を。@KentaroOgawa
— Quantum Universe (@hottaqu) 2017年9月15日
横からすみません。そのあたりを現代の理解で解説している、学部レベルの教科書(あるいは啓蒙書の類でも)勧められるものはあるでしょうか? あれば教えて頂けるととても有難いです。
— 竹内一将 (@oh_la_la_kazz) 2017年9月15日
これですかね?https://t.co/O6Rjp8oWiX
— おがわけんたろう (@KentaroOgawa) 2017年9月15日
量子エンタングルメントの定義や概念は既にしっかり確立していて、現在では多体エンタングルメントの定量化に関するより高度な数学的研究や、実験でより複雑な量子もつれ状態を作る研究が進んでいるだけです。もう工学的な段階ですね。https://t.co/kNzui4BRG7
— Quantum Universe (@hottaqu) 2017年9月15日
量子状態の収縮や時間とエネルギーの不確定性等の世間に流布した量子力学の誤解を無くすため、下記ブログの多くの記事でもそれを扱ってみた。学生さんだけでなくプロの間でも勉強になったとお言葉を頂いたりした。総アクセス数は17万を超えている。https://t.co/6TM8A4XUxt
— Quantum Universe (@hottaqu) 2017年9月16日
この測定過程は脳にとって非線形で不可逆な過程であるが、それは同時に、単なる脳にとっての系の知識の増加に過ぎない。量子状態や波動関数は系の情報の束にすぎないので、情報が増えた段階で、その測定者にとっての量子状態は瞬間に変化するのはby definitionとして極自然なことだ。
— Quantum Universe (@hottaqu) 2017年9月18日
コペンハーゲン解釈で、量子状態は系に関する測定者にとっての情報の束と言うと、一知半解の科学哲学者は、情報を解する人間にしか量子力学は意味がないのかとか言うのだが、全くの勘違いだ。まだ誤解されている方がいれば、下記のまとめをご参照。https://t.co/PuaUFys5yl
— Quantum Universe (@hottaqu) 2017年9月18日
凍った金魚の話題
この記事の本題とは直接関係しないけど、液体窒素とかで凍らせた金魚は大抵死んでます。理由はおそらく凍った時に水分の体積が増えて細胞膜を破ってしまうとかいう話だろうと。生きているパターンはうまく表面だけ凍っているというときだけのようですね… https://t.co/7z83OHbFPE
— おがわけんたろう (@KentaroOgawa) 2017年9月15日
ミクロもマクロも、非干渉性の重ね合わせも統一的に理解できるという量子論(作用素環論)の話題
9月19日に以下追記しました。
第6回ぶつりがく徒のつどい, 一日目13時55分より @rigakurage さんによる「作用素環論による量子力学の定式化 ~超選択則とシュレディンガーの猫~」の講演が行われます. 是非 https://t.co/SKxGfaIraP よりアブスト及び講義資料を参照ください.
— ぶつりがく徒のつどい (@butsurigakuto) 2017年9月16日
大変貴重なpdf公開有り難うございます。本題ではないのですが、陽子と中性子の重ねあわせは干渉性がないとのことですが、たとえば重水素崩壊反応後の陽子と中性子はエンタングルして(重ね合わされて)いませんでしょうか? https://t.co/vD7ZtqBMKN
— 渡邉極之 (@w_kiwamu) 2017年9月17日
お読みいただき有難うございます。ここでいう重ね合わせがないというのはある粒子があった時に“陽子であること”と“中性子であること”の重ね合わせによる干渉は見られないということです。ですから陽子(又は中性子)の運動量等が(例えば互いに干渉する形で)不確定性を持っていても問題ありません
— りがくらげ (@rigakurage) 2017年9月17日
中性子がベータ崩壊をして陽子と電子とニュートリノができるとき |n> と |p,e,νに別れた状態> の重ね合わせになったり、電荷が保存するような反応でアイソスピンが反転したりするときは干渉するけれど、保存則をやぶるような状態同士は重ね合わせられないという意味だと理解いたしました https://t.co/aDewerpUKt
— 渡邉極之 (@w_kiwamu) 2017年9月17日
言葉の意図するところを正確に汲み取れているかわかりませんが、中心パラメータを“猫の生死を区別する変数”と思えば間違いではないと思います。ですから“速度”というのは少し違うと思います。生死を定義できないので何とも言えないところもありますが。
— りがくらげ (@rigakurage) 2017年9月18日
「エントロピーの時間微分とその中心値」は定義できる量だとおもうので、それを生死判定と仮定して論をすすめても論点がずれないので有意義だとおもいました。時間微分にマイナスがある場合があり中心がゼロ付近なのが生命活動中状態で、常にプラスが生命活動のない状態なのかなと。 https://t.co/NBcX0HWEtb
— 渡邉極之 (@w_kiwamu) 2017年9月18日
猫がデコヒーレントな空間にまたがった物理的状態というわけではなく、生死の状態がデコヒーレントな空間に属するということです。また、恥ずかしながらデコヒーレントな空間の創発の定性的な理解が僕にはないので干渉がゼロになる説明ははっきりとしたことが申し上げられません。
— りがくらげ (@rigakurage) 2017年9月18日
二文目は正しいです。三文目ですが、創発の数学的定式化については定理7がそれに当たりますが、物理的説明はおっしゃる通り触れていません。(というより僕には触れられるだけの知識がありません。)
— りがくらげ (@rigakurage) 2017年9月18日
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